「僕はS高校へいく」
進路先の変更。
息子がそう言ったのは、肌寒さの感じる晩秋。俗にいう強豪校からスカウトの声もかかっていた。夏頃に見学に行っては息子や監督同士の話も進み進学先と決めていた高校へ行き甲子園を目指すものだと、私も息子も周りも、そう思っていました。
「全力で応援する!」
私は息子の言葉にそう答えました。嘘じゃない。本当にそう思っていました。でも、心のどこかがざわついていたのも、本当のことでした。
決め手は、監督だったらしい。
「あんなにいい監督はいない」
息子はそう言いました。その監督は、何度断っても諦めず、声を掛けにグランドまで足を運んでくれました。「今は弱いけど必ず甲子園を目指す。いい人生にする」——その言葉を、真剣に息子にぶつけ続けてくれた人です。
その監督の言葉には魂がこもっている。息子の高校野球とその先までも想像できるようなプランニングにもおどろかされました。保護者の面談の時も眼差しも考え方もまっすぐ。
きっと、勝てるチームより、この人のもとで野球がしたい。15歳がその選択をしたことに対して、私には、その判断を否定する言葉が見つかりませんでした。
それでも、ふとした時に後悔はしないのか?本当にコレでいいのか・・・と自分や主人に問う日々が続いていきました。彼の夢は小さい時から『甲子園』なのだから。あまりにも遠すぎる・・・
夢のために中学では硬式野球を選び、ひたむきに努力をし真面目にチームの仕事をし、なんとかレギュラーを勝ち取ってきたことを間近で見てきたらこそこの判断でいいのか、納得するには時間がかかりました。
入学して、春が来た
監督はブレていない。息子もブレていない。広いグラウンドの真ん中に立って、真っ直ぐ前を向いている。彼は前を向いている。チームも前へ進んでいる。
なのに、揺れているのは私だけ。
強豪校だったら。甲子園がもっと近くに目指せていたら。そんな言葉が、ふとした瞬間に顔を出します。もう入学したというのに。息子が自分で選んだというのに。監督の人柄を、私自身が「素晴らしい」と思っているというのに。
信頼できるはずの監督がいる。ブレない息子がいる。大勢の仲間がいる。
なのになぜ、私だけがまだここで揺れているのだろうと未だにスッキリしない日々を過ごしています。
息子の背中を見ながら思う
遠回りに見える道を、この子は自分の足で選んだ。私はまだその道に慣れていないだけで、息子はもうとっくに歩き始めている。
息子よ、お母さんはまだ追いつけていないけれど、あなたの選択を誇りに思っています。どんな道を選んでも、全力で応援することだけは、ずっと変わらない。グラウンドの真ん中で前を向くあなたの背中が、お母さんの背中も押してくれています。
お母さんはもう少し、追いつくのに時間がかかりそうだよ。
同じように揺れているお母さんへ
子どもの選択に、ついていけないと感じることがあっても、いいと思います。揺れているのは、それだけ真剣に向き合っている証拠だから。
完璧に受け入れられなくても、全力で応援はできる。私はそう信じて、今日もグラウンドの外から息子の背中を見ています。
遠回りに見える道が、その子だけの一本道になっていく。きっとそういうことなんだと思っています。



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